基調講演者 岸良 裕司 氏 インタビュー

アジャイルジャパン実行委員会はキーノートスピーカの岸良裕司氏に、TOCの魅力、キーノートスピーチの見所、そしてアジャイルへの提言を語っていただきました。是非アジャイルジャパンにご参加いただき、現場を変えるヒントを持ち帰ってください。

ダイジェスト音声も併せてご覧ください。
(※Windows Media Playerが起動し、wmaファイルが開きます)

アジャイルはなぜ人を引きつけるのか

アジャイルはその歩みをスタートしてから大きなうねりになって今まで続いています。
なぜそこまでアジャイルは多くのエンジニアを引きつけるのでしょうか。
アジャイルには「アジャイルソフトウェア開発宣言」という原則がありますが、魅力はそれだけではないでしょう。

では、平鍋さんがいるからでしょうか。
確かに平鍋さんは大きな影響力を持っています。でもそれ以上にみんながコミュニティを作っていこうという気持ちを持っています。優秀で問題意識の強い方が集まっています。何かしなきゃという志があるからこそ集まっています。
本当はもっと良くできるはずなのに、なんで現状はそうでないのか、というフラストレーションを持ってアジャイルに集まっているのではないでしょうか。

問題というのは現状と目標のギャップです。
現状より目標が高いとき、私たちは問題と認識します。

アジャイルに集まる方は現状よりも高い目標を持っている、
つまり志が高いのだと思います。



何が問題か

アジャイルソフトウェア開発宣言には

・プロセスやツールよりも個人と対話を
・包括的なドキュメントよりも動くソフトウェアを
・契約交渉よりも顧客との協調を
・計画に従うことよりも変化への対応を


という言葉が述べられています。
左が現状、右が目標で、いろいろなことを試みながらちょっとずつ右に近づいていきます。

私はアジャイルで、もう1つだけ取り組むべきものがあると思っています。
アジャイルは人を重視しています。
その人についてですが、人の能力はばらついていますよね。できる人、まあまあな人、これからの人、その真ん中に中心値があります。できる人はすごく少なく、1000人に3人くらいしかいません。ソフトウェアの世界ではスーパープログラマと呼ばれている人でしょう(余談ですが、せんだみつおさんの名前は、この「1000に3つ」から来ています)。

人の能力がこういう分布になっているとしたら、仕事ができないことはその人のせいでしょうか。その人の問題にして解決するでしょうか。その人を教育するとしても、長い時間がかかってしまいます。できない人のせいにしても問題は解決しません。

では、できる3人に目を向けましょう。仮に平鍋さんが「できる人」だとしたら、できる理由があるはずです。
平鍋さんができる理由をつまびらかにしたらどうでしょうか。組織全体のパフォーマンスが上がるはずです。これが、デミング博士がものづくりの世界に持ち込んだ品質マネジメントの考え方です。品質とは一人一人の改善ではなくマネジメントで作るものです。現場一人ひとりの現場まかせで品質を作っているとしたら、経営をやっていないことになります。

ドラッカー博士は「普通の人に普通以上の仕事をさせること」をマネジメントと定義していますが、そうなったら素敵ですよね。
同じ人がめざましい成果を上げられるようにすることこそがマネジメントの差です。
これができたら素敵ですよね。



TOCとは

デミング博士は物理学者としてものづくりの現場の品質改善をしましたが、ソフトウェアでも同じことができないでしょうか。
次の質問について、考えてみてください。

・「知ること」と「やれること」どっちが難しいですか?
・「やれること」と「やれるように教える」ことはどちらが難しいですか?

自分のできることでも人にやれるように教えるのは本当に難しいのに気がつきます。
ゴールドラット博士はそればかりを研究した人です。できるからには何らかの理由があるはずだ、その理由を見つけ出そうとしたのです。

アジャイルジャパンではその中でも実践的で一番おいしい、すぐできることをお見せしようと思っています。

普通の人でも仕事がものすごくできるようになると、組織全体のパフォーマンスがとても良くなることを実験と事例をもって実感してもらいたいと思っています。

TOCのルーツ

TOCのルーツは物理学をルーツにしています。
ゴールドラット博士はモノの理(ことわり)を研究したのです。物理の考え方をものづくりに応用したのがデミング博士だとしたら、人間に応用したのがゴールドラット博士と言えるでしょう。

アジャイルに集まる方は一生懸命がんばって働いている方、しかも志の高い方だと思います。
一生懸命やっているのに、まだアジャイルソフトウェア開発宣言で言う左側の世界がいるなら、まだ何かおかしなことがあるのかもしれません。

暗いところでコインを落としたのだけど、明るいところを探すという話があります。
明るいところなら探しやすいからなのですが、そこにコインはありません。


アジャイルの問題はどこにあるのか

徹夜もいとわず働いて問題が解決しないのなら、問題は現場の外側にあるのではないでしょうか。

アジャイルでマネジメントを変えるというのはどうでしょう。
マネジメントが現場を助けてくれたらどうでしょう。
現場がいくつも仕事を抱えているのを、マネジメントが1つに絞ってくれたらどうでしょう。
もっと進んで、マネジメントが現場を守ってくれるとなったらどうでしょうか。

アジャイルジャパンでは、こういうことが否応なく起きるようなゲームを楽しみながら行いたいと思います。

アジャイルジャパンでは具体的な事例、それも日本だけでなく海外の事例も交えて紹介します。
例えば飛行機の開発ですが、大統領専用機のエアフォースワンをご存じでしょうか。実は、エアフォースワンは飛行機というよりもハイテク機器の塊、ソフトウェアも最先端のものが組み込まれているのは当然のことです。その補修をするためにスーパーエンジニアがいるのですが、彼らが苦しみからどう開放されたのか、その事例をご紹介します。そこには知恵が山ほどあります。きっと楽しんでいただけると思います。

もしかしたらアジャイルのファイナルフロンティアは開発の現場に外側にあるのではないでしょうか。もしそこにまだ触っていないとしたら、可能性は無限かもしれません。そこから面白いことがどんどん出てくればちょっとびっくりですよね。

ぜひ、上司を連れてアジャイルジャパンに来ていただきたいと思います。

※実行委員会注:アジャイルジャパンには上司やお客様をお誘いいただくための、ペア割りが用意されています。



私のキーノートのテーマ

私のキーノートを聞くと、きっと「自分もそれをやっていた!」となると思います。
できる人ほどそう言うはずです。
往々にして新しい取り組みはできる人が抵抗勢力になることがありますが、その人がグレートサポーターになるのがTOCのよいところです。

できる人は自分でできることをわざわざ言葉に表しません。そうしなくてもできているのですから、必要がないのです。
科学では、法則性を見つけ、再現性があることを示していきます。それをできる人に見せて、「その通りなんだよ」と思ってもうことがイノベーションにつながります。

アジャイルジャパンでは、できる人の本当のやり方、本質を見つけること、その中でも一番実践的でおいしいところだけを限られた時間でやってみたいと思っています。「俺の言いたかったのはこのことだったんだ」と参加した方々は上司にそういってもらえるようになってもらえればと願っています。偉くなっていくのは上司にそう言わせる部下であるとよく聞きますよね。

暗黙知はなかなか形式知化できません。
例えば靴の紐を結べますか?問題なくできると思います。でも、その結び方を説明できますか?こう質問されると自分で簡単にできることでもなかなか説明できないことに気がつきます。
暗黙知は長年かけて一緒にやり方を教えるしかなかったのですが、それをもっとシンプルなやり方で教えることができたらどうでしょうか。
教えることで相手も分かり自分の理解も深まるとしたら、一挙両得です。

今回お教えするのは、How to teachです。
シンプルですが「教え方」を教えます。
あなたの上司の行動を変えることができると思います。


TOCとの出会い

私はかつて京セラにいたのですが、京セラの部品は一番リードタイムが長く一番コストも高いボトルネックでした。
当時、「お前のところがボトルネック」だと外部から指導されたのですが、言われてまじめにやってみたところ、とてもいい結果が出たのです。こんなに簡単にできるのかと驚いたのです。TOCのことはまだ知りませんでしたが、これは面白いと思いました。こんな手があったのかと。

考えてみると、「このくらいの期間かかる」と思っている自分の思い込みが問題なのであって、「短い期間でできる」と考え方を変えればできるのです。トヨタさんにも厳しい中にも厳しい指導をいただいたのですが、本質的には一緒でした。

後に『The Goal』を読んで、これがTOCだったのかと気づきました。
TOCとTPSの違いも分からないくらいだったのですが、実はTOCはセオリーなんです。


個々の事例を統一的に説明するのがTOCで、トヨタの自動車の環境ぴったりに作ったのがTPSと言えます。

TPSの手法を猿まねするだけと失敗します。
京セラにはトヨタ向けのラインがありますが、同じ自動車のラインでもトヨタ以外の会社のラインに適用するとうまくいきません。

変動性、不確実性がある場合にどうするか、それを我々はやっているわけです。
変動性、不確実性に合わせるにはどうするかを考えていくと、この方法だねということに気づきます。


TOCとソフトウェア開発

TOCはセオリーで、単純に言えば全体最適のマネジメント理論です。
プロジェクトのマネジメント手法としてCCPMがあり、繰り返し生産の手法としてDBRがあり、サプライチェーンの手法としてDBMがあります。小売業の向けの手法もあります。

TOCは手法と勘違いされることがありますが、TOCは理論です。
理論は個々の事象を統一的に幅広く説明できるものでなければなりません。

ソフトウェアではリーンという言葉が聞かれるようですが、トヨタの方がリーンをTPS(トヨタ生産方式)と感じているかというと必ずしもそうではありません。もしリーンが成功しているというなら、トヨタと同じくらいの成功が出ていないといけません。

もしかしたら、まだ理論化が十分ではないのかもしれません。
もし理論として通用するのであれば、どこでもめざましい成功が出ていないといけません。

本質にレッテルを貼ると本質が見えなくなります。
ラベルをはがして、こすりとって本質がどうなるかを考えるべきです。

ものごとをもっと深いレベルで見て、手法の部分をはがしていった本質の部分はソフトウェア開発でも何でも使えます。
ゴールドラット博士は、手法をはがしていった結果、TPSの根底には4つの本質的な概念があると言っています。

・流れの改善がオペレーションの主な目的である
・そのためにはいつスタートしないかという具体的なメカニズムが必要である
・部分最適は排除しなければならない
・流れをバランスするメカニズムがなければならない

この4つの原則は幅広い分野に適用が可能です。

ソフトウェアはロジックでできています。
アジャイルジャパンに集まる人たちは、みなさんロジックは強いはずです。
そして志も高い。

そういうみなさんで、産業界全体を科学的に、ロジカルに、全体最適のマネジメントに導くきっかけにしてもらえればと願っています。




インタビュアー:アジャイルジャパン実行委員会 西河、平鍋、前川、 文責:野口




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